50代、完全リタイアで投資生活

50代無職、独身男のリタイア生活。 資産4000万円で投資はインデックス運用です。旧ブログはこちらです。リンクから飛べます。https://maruzokun.hatenablog.com/

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「しろいろの街の、その骨の体温の」を読んで

こんにちは、まるぞーです。

 

先日書いた記事の続編です。村田沙耶香さんの、「しろいろの街の、その骨の体温の」を読み終えました。

 

 

 前回の記事では、まだ読み始めたばかりで、気持ちも読書に集中できていなかったこともあり、あまり良いとは思わないなどと、酷評してしまいましたが、それは完全に私の誤りでした。

 

これはとても深い内容の、まさに心を揺さぶられ、とても重要なことを私に教えてくれたというか、気づかせてくれた、素晴らしい小説でした。

 

村田沙耶香さんは、「コンビニ人間」で感銘して、べた褒めしましたが、そのあとで読んだ2冊がいまいちだったので、今回もその程度かなと侮っていましたら、これは「コンビニ人間」に勝るとも劣らない、どちらが上かなんて順位をつけるのが野暮なほど、素晴らしい小説でした。

maruzokun.hatenablog.com

 

やっぱり村田沙耶香さんは、ただ者ではありませんでした。

 

こうなったら、まだ読んでいない彼女の作品を全部読んでみたいと思います。

 

さて、小説の内容ですが、以前の記事で読んだところでは、作者は小学4年生の少女で、性の目覚めがテーマかと思いきや、それはまだプロローグに過ぎず、途中から場面は中学2年生へと飛び、中学生女子に特有の友達関係、スクールカーストがメインテーマになってきました。

 

スクールカーストは女子のみに限った話ではなく、男子にもあるのですが、ここでは主人公の女の子の視点から、本当に読んでいて辛くなるような、おどろおどろしい醜いスクールカーストが描かれています。

 

でもそれだけだったら、単に汚い現実をリアルに描いただけの小説になっていたところですが、後半になって、信子ちゃんという、主人公「結佳」の友達が、自分に対し、暴言で陰湿ないじめをしてくる井上という男子生徒に向かって、ただ耐えるのではなく、自分の心の声をぶつけて、殴りかかっていくという抵抗を見せたことに対し、それを「美しい」と表現したことをきっかけにして、結佳もクラスの「ルール」に従うのではなく、自分の声を出して、スクールカーストに対し反旗を翻していくのです。

 

これはなかなかできることではありません。

 

私も中学時代、少しいじめられた経験もあり、暗い過去ですが、このような差別やいじめは、何も子供だけが残酷だという話ではなく、大人の社会にもちゃんとあります。

 

むしろ私はこの小説で言われるところの、「幸せちゃん」で、鈍感ゆえに気が付かなかっただけで、敏感な子たちは、ほんとにものすごく人間関係に気を使って、自分を守ることに必死で、自分が標的にならないために、いじめを見て見ぬふりをするばかりか、いじめに加担するというのが、多数派ではなかったかと思います。

 

そんな中で、おかしいことはおかしいと言えて、自分の意志で勇気をもって立ち向かえるというのはすごいことだと思いますし、それはとても大切なことだということを思い知らされました。

 

私は大人になってから、会社勤めをしていく中で、このような見えない上下関係といいますか、陰湿な人間の醜い部分を、いやというほど見てしまい、それで人間関係が嫌になり、人間嫌いの対人恐怖症になってしまいました。

 

この小説は、主人公の猛烈な恋心も描いたもので、最後は思いを寄せていた男の子と結ばれるというハッピーエンドで終わっていますが、そこでもやはり、自分に素直になれず、自分の本当の気持ちを伝えられないというもどかしい青春の心模様があり、さらにそれがクラスの人間関係を気遣うことも障害になっているという、複雑な人間模様がリアルに描かれています。

 

私は男ですし、友達もほとんどいない中学、高校時代を過ごしてきたので、こういう人間関係というのは、ピンと来ないところもありますが、それでも年齢や性別を超えて、主人公の気持ちが痛いほど伝わってきて共感できたのは、まさに作者の表現力の力量のすごさだと思います。

 

この小説はよくある青春小説や、恋愛小説のようにも見えますが、青春って辛いこともいっぱいあるけど、やっぱりいいなあなどと、おじさんがノスタルジーに浸るだけのものとは全く違い、深いテーマを持っていました。

 

それが、村田さんの他の小説にも共通する、社会の「普通」という概念をぶち壊す、あるいは、世の中の見えないルールに、いやいや従って生きるのではなく、自分の声を上げ、自分の生きたいように生きるというメッセージが込められているように思います。

 

そして何よりも私が感動して涙が出そうになったのは、人間というものには、もちろんスクールカーストに象徴されるような、自尊心を守るがための、醜い差別やいじめといった悪い面があるのは認めつつも、よい面もあるという希望が描かかれていることです。

 

希望とはまさに、自分が間違っていると思ったものには勇気をもって、戦いを挑むということや、この小説の中で「美しい」と表現される心の持ちようも、ちゃんと人間には残っているんだということです。

 

私は人間に絶望し、人間の「美しい心」というものが信じられない、人間不信の状態に陥っていましたが、この本を読んで、それは私の間違いだと思うようになりました。

 

単に私に勇気がないだけなのだと思い知らされました。

 

ですから、この事実に直面したことで、後半食い入るように夢中で読み終えましたが、読後はどっと疲れが出て、しばらく考え込んでしまい、動けないほどの疲労感が残りました。

 

それはまさにこの本によって、私が今まで逃げてきた、本当は真正面から立ち向かわなければならない、本質的な問題を突き付けられたからだろうと思います。

 

とにかくこの小説は、私が今まで読んで影響を受けた本の中でも、トップレベルの重要な作品でした。

 

これから仕事を始めて、図書館に行けなくなると、読書量も減るかと思っていますが、やはり暇を見つけて、読書は続けていこうと思います。

 

このような素晴らしい作品との出会いは、本当に心を豊かにしてくれます。

 

別に小説である必要はありません。漫画でも、アニメでも、映画でもドラマでもなんでも同じです。

 

良い物はよい、つまらないものはつまらない。これからもこうした感動できる作品に、たくさん出会いたいです。

 

年齢は関係ないと思います。私にも青春時代のみずみずしい感性が、まだまだ残っているんだと感じさせられる作品でした。そして正義感と。

 

間違っても上司の命令や保身のためなら、不正でも平気でやってしまうような人間にだけは、なってたまるかと思いました。

 

それではまた。